だが高校時代、母が働く緩和ケアの現場で、残り少ない人生をいきいきと過ごす人を見て、「最先端の技術やマンパワーを駆使して病気を治し、命を延ばすのも医師の大切な仕事だが、同じ命に携わる仕事をするのであれば、『人生の花道を飾る』緩和ケアを生業としたい」と確信するのだ。
緩和ケアは「諦め」の医療ではない
緩和ケアは30年ほど前に日本で制度化されたが、今も認知度は高くはない。剛さんは「誤解も多く、『緩和ケア医に診てもらうような人は生きることを諦めた人』と烙印を押された気持ちになる患者さんも。なので、勧めるだけで『縁起でもない』と気分を害する方もいます。
私も緩和ケア医として週に1回勤務する中央市民病院では、治療中の患者さんから『もう、あの医師には来ないでほしい』と苦情を言われたこともあります。『治療はできず、いよいよ最後のお別れ』のイメージが強いのです。
でも、がんと診断されて治療が始まった時から、緩和ケアも併用するほうが長生きにプラスになることは科学的に証明されており、治療中から緩和ケアを勧める医者も増えています」と説明する。
そんな剛さんが緩和ケア医としてのやり甲斐を感じた瞬間がある。「多忙で応援の医師を派遣したら、『バイトをよこすんか』と文句を言うなど、何かにつけ敵対的だった患者さんがいました。
私ががんで入院する時、仕方なくまた応援医師を派遣したら、その患者さんが『頑張れ』とメッセージを書いたホワイトボードを持ってピースサインをする写真を、応援医師がメールで送ってくれたのです。嬉しかった」