もどかしい思いをしながらも、剛さんはSNSでも思いを発信している。

私の葬儀で妻に挨拶させるのは忍びないから

コロナについて剛さんは、基礎疾患を持つ患者(多くはがん患者)に、「もしも感染して、重症化したらどんな医療を希望するか? それはなぜか?」を家族で話し合う機会を多く提供することが、緩和ケア医にできることだと言う。

自身が肺がんから脳転移という基礎疾患を持つ緩和ケア医として、発熱や、咳の症状のある患者を日々往診、〈濃厚接触〉している。「知らない間に抗体持っているんとちゃうかなー?」「誰かから感染してしまったとしても、運よく重症化せずに対症療法で治癒するんとちゃうかなー?」などと考えたりする。

幸運に期待しつつ、「自分が重症化した場合、人工呼吸器でも十中八九助からないような時は、治癒が期待できるほかの人に人工呼吸器を使ってもらい、自分は緩和ケアをしてもらえばいいかな」と。最悪に備えたこうした考えを家族や友人知人と共有しておきたいという。そして最近、ワクチン接種を終えた。

剛さんは妻や子どものためにある準備をしている。自分の葬儀で流すように、参列者へお礼を述べる様子を録画してあるのだ。「私の葬儀で妻に挨拶させるのは忍びないから」と言う。さらに、成長した子どもたちへ向けたメッセージの録画撮りも始めた。

一方で雅子さんは、息子が不治の病と判明して決めたことがある。

「深夜の急患などには基本的に私が対応します。さらに私自身の実家の墓じまいをしました。私は一人っ子ですので、剛も私も死んだ後、墓の世話をお嫁さんたちにやらせるわけにはいかない。また、夫と二人で遺言を書きました。剛はたぶん、私より先に死んでしまうのでしょうが、剛の妻子、そして娘とその子どもたちのため、財産をきちんと分けておかなくてはならないからです」

人間の最期を見届け続ける緩和ケア医。冷静な二人の話を聞き、不測の事態や将来に備える意識が高いことを実感した。