「そりゃわかりますよ、曇ってますから」

ソーシャルディスタンスを保った場所からポリスが言う。

「散歩していたら同僚から電話がかかってきて質問を受けたので、書類を出してチェックしてたんです」

われながらスラスラとうまいことが言えた。が、余裕で微笑していると三十代ぐらいの女性のポリスが聞いてきた。

「仕事の書類と一緒に散歩していたんですか?」

「え」

そうか。ロックダウン中に許されているのは、エクササイズ目的の外出のみである。仕事の書類を持って散歩していた、というのは実に不自然だ。しくじったか。

 

これは巷に言うロックダウン鬱なのでは

「い、いや、あのー、偶然にジャケットのポケットに入ってて。ははは。でも、じっとベンチに座ったりするのはルール上ダメだってわかってますよ。だから、ちょっとだけチェックして、また歩き始めるつもりでした、あはは」

卑屈に笑いながらしどろもどろに言い訳していると、突如として獰猛な怒りが込み上げてきた。

いったいなんで公園に座って仕事しちゃいけないんだよ。だいたいここは公共の場だし、ソーシャルディスタンスどころか人っこ一人歩いてないじゃねえか。そもそも、行くところがないからこういう寂しい場所にぽつねんといるのであって、こっちだって好きこのんで凍える戸外で鼻水たらして仕事してるわけじゃないんだよ。なのに、どうしてベンチに座ってるだけで警察に怒られないといけないんだ、いったいどうなっちまったんだよ、世の中は。

口に出せない言葉たちが脳内でどんどん増殖し、気づいたらわたしはぼろぼろ涙を流していた。やばい。これは巷に言うロックダウン鬱なのでは、と自分で自分に驚き、とりあえずゆっくり深呼吸することにした。