「自分に与えられた人生だけは、十分に生き抜いた。ただそう思うだけで、後悔もなければ、懐かしくもない」(佐藤さん)

ストックなしで45年間日刊連載を

五木 僕は今もいくつか連載をやっているんですが、佐藤さんもずっとお書きになっていますね。

佐藤 気ままな連載です。でも書いて書いて、やっと書けたと思っても、翌日になって読み返すと、気に入らない。それで捨てるんですよ。それでまたある程度書いて、「あぁ、これで明日、終わりに向かえばいい」と思って安心して寝るんです。でも翌日読むと、やっぱりダメな点が見つかる。原稿用紙7枚書くのに、100枚綴りの原稿用紙を1冊使ってしまいます。

五木 それはすごいなぁ。

佐藤 若い頃はサッと書けたものなのに。今はダメですねえ。

五木 いやいや、その客観的視線があればこそ、誰が読んでも面白いものをお書きになれるんです。作家の鑑です。僕なんか夕刊紙の連載は、毎日夜中の12時半の締め切りギリギリに送るという軽業みたいなことをやっていましてね。日々見聞きしたことを受けて書きたいので、ストックを作っていないのですが、なんとか45年間、1回も休まずに続けてきました。

佐藤 拝見すると、あぁ、なるほど、すらすらお書きになっているんだな、というふうに思います。

五木 お恥ずかしい。本来作家は、何度も推敲しなくてはいけないんだろうけど。