(左)中村勘九郎さん(右)中村七之助さん
中村勘九郎さん、中村七之助さんは毎年、全国巡業の特別公演を行っている。ふだん歌舞伎を上演する機会のない場所にも出向き、より多くの人に歌舞伎を楽しんでもらうための試みだ。2005年から欠かさず上演してきたが、20年はコロナ禍で全公演が中止に。今年は春に全国5カ所で開催。勘九郎の息子である勘太郎さん(10歳)と長三郎さん(8歳)が、巡業に初めて参加した。10月の「錦秋特別公演2021」を前に春を振り返ってーー(構成=塚原沙耶)

役者も人間ですから、やっぱり嬉しい

勘九郎 3月の巡業公演では、たくさんのお客様が足を運んでくださって、本当に嬉しかったです。コロナ禍の影響で舞台が中止になっている時、過去の舞台映像を見ていたら、客席いっぱいにお客様がいらっしゃって。それを見ながら、「この状態をいつ取り戻せるんだろう。夢にならなきゃいいな……」と思っていた。ですから巡業で多くのお客様を前にして、胸に迫るものがありました。

七之助 幕が開いて、最初はすごくびっくりした。あんなにお客様が入っているのは久しぶりで。役者も人間ですから、やっぱり嬉しい。

勘九郎 声は出せないけれど、そのぶん大きな拍手をくださって。それ以上叩いたら、手が痛くなっちゃうよ、というくらい。待っていてくださったんだなという安心感と嬉しさがこみ上げました。今のような状況の中、観に来てくださることに感謝しかない。

「待っていてくださったんだなという安心感と嬉しさがこみ上げました。今のような状況の中、観に来てくださることに感謝しかない」(勘九郎さん)

七之助 温かい拍手をいただいて、役者というのは、いていいんだなと思いました。生活には必要ないものですし、世の中が混乱している時にやっていていいのか悩むような職業ではあるけれど。