理想の「ダイニングテーブル」で調理をする有賀薫さん(撮影:藤澤靖子)
1辺95cmの四角。真ん中にIHヒーター、端に小さなシンク、足元に食洗機。食事はスツールに腰かけて――。テーブルにして小さなキッチンでもあるこの装置を自宅に設えたら、夫婦2人の食卓に変化が訪れた(構成=内山靖子 撮影=藤澤靖子)

キッチンをリフォーム。たどり着いた「ミングル」とは

このダイニングテーブルは、調理して食事して片づけまでが完了する一台三役。ミングルと呼んでいます。今から約3年半前、54歳のときに作ろうと思いたちました。きっかけは、50歳の頃から始めたスープ作家の仕事が忙しくなってきて、それまで使っていた自宅のキッチンが手狭になってしまったこと。築20年の分譲マンションについていた、ガスコンロ、シンク、調理スペースが横一列に並ぶ、いわゆる一般的なタイプのキッチンは作業スペースが狭く、料理のプロセスを撮影するにも不向きだったのです。

そこで、夫の快諾も得て、キッチンと居間、居間に続く和室をリフォームすることにしたのですが、せっかくリフォームするならば、それまでの大きなダイニングテーブルのスペースに、私が理想とするアイランド型のキッチンを作りたいと考えました。

なぜならば、昭和の時代からほぼデザインが変わらぬ横一直線タイプのキッチンは、システムキッチンであれ、対面型のキッチンであれ、どれも主婦が1人で料理をするという想定で設計されたもの。そのため、2人以上の人数で料理をしようとすると非常に動きにくいのです。その中で、唯一、家庭科の調理実習や料理教室で使われているようなアイランドキッチンだけが、複数の人間がスムーズに動け、みんなで楽しく料理ができる。

スープ作家の仕事を始めて感じたのは、「家事のシェア」に対するみなさんの関心がすごく高まっているということ。でも、実際はちっともシェアできていない。それはやはり、キッチンが「1人用」だからじゃないか、と。60代半ばのうちの夫も「主婦の牙城のようなキッチンは、自分には敷居が高すぎる」。何がどこにあるのかわからないし、下手にあちこち触ったら怒られそうだから、と。

だったら、もっとオープンで、家族の誰もが気軽に料理を作れるようなキッチンがいい。特に、これから家庭を持つ、共稼ぎの若いカップルが、料理や後片づけを楽しくシェアできるようなキッチンを提案したいという思いから、ミングルを作ることにしたのです。