主婦は「キッチンで料理すること」に、エネルギーが必要

また、体がラクになったのはもちろんですが、それ以上に大きいのが、心が軽くなったこと。それまでの閉鎖的なキッチンは、夫ばかりか私自身もキッチンに入るときに、「さあ、料理をするぞ!」と、自分を奮い立たせる必要がありました。

そもそも料理が好きな料理家の私ですらそう感じるのですから、一般の主婦の方々は「キッチンに入って料理をすること」に、かなりのエネルギーを必要としているはずです。それが、このキッチンに変えてからは、座って、居間にあるテレビを観ながらインゲンの筋を取るなどというところからゆるゆるとスタートし、ごく気楽な気持ちで、毎日の食事作りができるようになりました。

普段使う食器は、壁面に設えた扉付き棚、2段分に収めた。テーブルのサイズとも相性のよい小ぶりのものを厳選して

食卓に並ぶメニューも変わりましたね。このキッチンはコンパクトで使いやすい代わりに、強い火力が必要な揚げ物や炒め物には向いていません。自ずと、メインの料理は「焼く」か「蒸す」。IHヒーターの上で魚の切り身を焼いて、サラダと具だくさんの味噌汁を添えるとか。もやしと豚肉をセイロで蒸して、醤油やポン酢をかけて食べたり。

それまでは、「やっぱり一汁三菜は作らなきゃ」と意気込んでいたのが、このキッチンにしたことで、シニアの夫婦2人暮らしなら、一汁一菜のシンプルな食事で十分なのだということもわかりました。夫からも、まったく不満は出ていません。むしろ、それまでは私のほうが「やらなきゃ」と、気負い過ぎていたのだということにも、キッチンを簡素化して初めて気づくことができたのです。

把手を取り外せる鉄製フライパンは、調理後そのままお皿として。カッティングボードは皿にもなり食洗機もOK。洗いものを減らしテーブル上の風景を豊かにしてくれる優れモノたち

また、以前は「作る時間」と「食べる時間」に分かれていたのが、今は「作りながら食べる」ことができるので、料理や食事に費やす時間も短縮できます。私が味噌汁を作っている間に、切ったピーマンを「IHヒーターの上で焼いておいてね」と、夫に頼むこともできる。それまではキッチンを敬遠していた夫も囲炉裏を囲んでいるような感覚なのか、料理に参加することへのハードルがかなり低くなったみたいです。

おかげで、自分が休める時間が増えたのもありがたいですね。以前は、自分の仕事と家族の食事作りに追われて、常に時間がないと感じていました。何かに急き立てられているようで、やるべきことを早くこなさなきゃ、と、気ぜわしくて。それが今では、時間的、精神的にもゆとりが生まれたと言いますか。空いた時間で、特に何かをするわけでもないのですが、ゆとりが生まれたおかげで、気持ちがラクになったと感じています。