関わった人達をたどったルポルタージュ
ぼくが安楽死に興味を持ったのは、ジャーナリストの宮下洋一さんが、2017年12月に出した『安楽死を遂げるまで』(小学館)という本を読んでからです。カバーを外すと真っ白な装丁の分厚い本で、小さな棺のような感じがしました。そのタイトル通り、スイス、オランダ、ベルギー、スペイン、アメリカ、日本で、安楽死を遂げた人達、安楽死に関わった人達の経緯をたどったルポルタージュです。安楽死をする直前の人にもインタビューしていて、その人が亡くなるまで見届けています。それが終わった時に、「犯行現場に居合わせている気分に襲われた」と書いています。
宮下さんが「安楽死の世界」に導かれたのは、スイスで長年自殺幇助を行なってきたエリカ・プライシックというホームドクターとの出会いからでした。彼女は寝たきりになった父親の安楽死に立ち合ったのを契機に、スイスの大手自殺幇助団体「ディグニタス」を経て、2011年に「ライフサークル」を設立し、年間80人ほどの自殺幇助を行なっています。
安楽死が合法化されている国の中でも、外国人を受け入れているのはスイスだけです。「ライフサークル」の会員は世界中に1660人いて、日本人も17人が登録しています(2019年4月現在)。しかし、登録したらすぐに自殺幇助が受けられるわけではありません。まず、医師の診断書と自殺幇助を希望する動機書を、英・仏・独・伊いずれかの言語で書いて送り、「ライフサークル」の審査を通さなければなりません。審査が通っても、プライシックの質問に直接答えられる英語力も必要です。それと、100万円ほどの費用が必要になります。
この本の中で、エリカ・プライシックはこう言っています。「私の願いはずっと変わっていないわ。いつか、私が外国人を助けなくていい日が来て欲しい。それには、世界の国々が死に対する考え方や対処法を変えなければならないの。まだ先は長いでしょうけど……」と。世界の国々が、安楽死合法化に積極的になって欲しいと考えているのです。
また、「ライフサークル」は「可能性がある限り、長生きしてもらうこと」をモットーに活動を続けていて、これがスイスの他の自殺幇助団体との大きな違いだと、彼女は主張しています。