『NHKスペシャル 彼女は安楽死を選んだ』の衝撃

ところが、日本人で初めて「ライフサークル」で自殺幇助を受けたいという人が現れたのです。多系統萎縮症という難病を抱えた、小島ミナさんという51歳の女性です。

彼女を追ったドキュメンタリー『NHKスペシャル 彼女は安楽死を選んだ』(2019年6月2日放送)は衝撃的でした。ミナさんは2人の姉に付き添われてスイスに行き、「ライフサークル」でエリカ・ プライシックから自殺幇助を受け、2人の姉に見守られながら死を遂げます。その死は眠るように穏やかなのですが、人が死んでいく有様をテレビが、しかもNHKが放送することに驚きました。「死」がこんなにもオープンになったのかという驚きです。

このドキュメンタリーが放送されたのと時を同じくして、宮下洋一さんが書いた『安楽死を遂げた日本人』(小学館)という本が出版されました。

宮下さんが、『安楽死を遂げるまで』を書いたあと、現実の日本人にしっかり向き合って、もう一度安楽死の取材をしたいと思っていた矢先に、小島ミナという女性から1通のメールが来ました。メールのタイトルは「安楽死をスイスにて行うつもりです」でした。

ミナさんは『安楽死を遂げるまで』を読んで「ライフサークル」を知り、そこで最期を迎えたいと考えていて、「ライフサークル」に登録するために書いた文書も添付されていました。それを要約すると次のようになります。

 3年前に神経内科の医師から多系統萎縮症(MSA)と告知されました。その告知を受けて、愛犬と暮らしていた東京から、故郷の新潟の長姉の所に住むようになりました。

MSAは時間をかけて徐々に全身の機能をなくしていく病気で、もう歩くことも出来ず、話すことも不自由で、両腕に強い痛みを感じ、震えのため物を掴むことも出来ません。やがては寝たきりになり、胃瘻と人工呼吸器をつけることになり、摂取と排泄まで1人では出来なくなります。

私は独身で、夫も子供もおりません。幸せを見届けたい相手もいません。これまでの人生は、それなりに楽しんできたので、思い残すことはありません。命が終わることに悔いはありません。

寝たきりになる前に自分の人生を閉じることを願います。私が私であるうちに安楽死を望みます。