《安楽死》と嘱託殺人事件

『NHKスペシャル　彼女は安楽死を選んだ』が放送された年の11月に、日本で嘱託殺人事件が起こっています。筋萎縮性側索硬化症（ALS）の女性患者・林優里さんに依頼された2人の医師が、彼女が住む京都のマンションを訪れ、付き添いのヘルパーが別室にいる間に、林さんに致死量の薬物を投与しました。ヘルパーが救急車を呼んだ時には林さんは意識不明で、搬送先の病院で死亡が確認されました。奇しくも彼女の年齢も小島ミナさんと同じ51歳でした。

翌年の2020年7月23日に、嘱託殺人罪で2人の医師が逮捕されました。宮城県名取市でメンタルクリニックを開業している大久保愉一医師（42歳）と、品川区でED治療のクリニックを開業している山本直樹医師（43歳）です。

この2人の医師と林さんが知り合ったのはツイッターでした。安楽死を希望する林さんのツイートに、「訴追されないならお手伝いをしたい」と大久保医師が返信していました。安楽死の報酬は130万円で、亡くなる1週間前に林さんから山本医師の口座に振り込まれていました。

大久保医師と山本医師は学生時代からの知り合いで、2人の共著で『扱いに困った高齢者を「枯らす」技術』という電子書籍を出しています。

その内容説明には『認知症で家族を長年泣かせてきた老人、ギャンブルで借金を重ねて妻や子供を不幸に陥れた老人。そんな「今すぐ死んでほしい」といわれる老人を、証拠を残さず、共犯者もいらず、スコップや大掛かりな設備もなしに消せる方法がある。医療に紛れて人を死なせることだ。病室に普通にあるものを使えば、急変とか病気の自然経過に見せかけて患者を死なせることができてしまう。違和感のない病死を演出できれば警察の出る幕はないし、臨場した検視官ですら犯罪かどうかを見抜けないこともある。荼毘に付されれば完全犯罪だ（以下略）』と書かれています。

これを読んで唖然としました。こんなことを考えている医師がいることに恐怖を感じました。また平然とこんな文章を公開している無防備さにも驚きました。

実際にその方法を実践したのか、大久保医師、山本医師、山本の母親に、山本の父親を殺した容疑がかけられています。