「最近ではもう、周囲からこう思われたい、こう見られたいという欲も少なくなりました。」

家族に会いたいとなったらすぐに会いに行く

『醉いどれ天使』は、1948年に黒澤監督と若き日の三船敏郎さんが初めてタッグを組んだ作品です。戦後の混沌とした時代を生きる人間の葛藤や希望が鮮やかに描かれ、日本映画史に残る傑作として支持されています。

僕が演じるのは、闇市の顔役の松永。肺を患いながらアウトローの世界に生きる彼と、高橋克典さん演じる酒好きの町医者・真田との交流を軸に、物語は展開していきます。

松永は戦争の生き残りで、なぜ自分は生かされているのかと考え続けている男です。一秒でも早く家族に会いたいはずなのに、素直に行動できない。生業にしている闇市でのやくざ稼業にしても、本心から彼が望んだものなのかどうか……。時代の濁流にのみ込まれた男のつらさとでも言うのでしょうか、この作品の魅力はその悲しさにあると僕には感じられました。

ちなみに僕は、家族に会いたいとなったらすぐに会いに行くし、病気になったら気持ちから治しにいくタイプです(笑)。なので最初に映画を観た時は、「なぜ彼は素直にならないんだろう? 病気のことだって、天使(真田医師)の言うことをきけばいいのに」と思っていました。