「以前の僕は、板にあけられた小さな穴めがけてボールを投げて、その穴に入らなかったらダメだと考えるタイプの人間でした。」(撮影:大河内禎)
役者、そしてミュージシャンとしても活躍している桐谷健太さん。野性味あふれる存在感で私たちを魅了する一方、そのイメージに悩んだ時期もあったそうで――(撮影=大河内禎 構成=上田恵子)

『俺の家の話』の観山寿限無を20代で演じていたら

役者として活動を始めて20年近く。最近になって、さらに、改めて、力を抜くことの大切さを知りました。今は自分の体にくっついていたものが剥がれて、どんどんピュアになっていく感覚を楽しんでいます。

以前の僕は、板にあけられた小さな穴めがけてボールを投げて、その穴に入らなかったらダメだと考えるタイプの人間でした。正解はそこにしかないと決めつけていたんですね。もしかしたら、板に当てるのが正解かもしれないのに。実際は力を抜いたほうが浮かぶにもかかわらず、「がむしゃらに力んでもがき続けないと水面には出られない」と、必死になっていた時期もありました。

もちろんそれらは自分にとって必要な過程でしたし、20代、30代でそういう経験をしておいてよかったとも思います。だけど今は、このフワッと力が抜けた感じが心地いい。むしろあそこまで力が入りまくった状態で、よく今日までやってこられたなあと感心しています。(笑)

たとえば、2021年1月から3月まで出演していたドラマ『俺の家の話』で演じた観山寿限無。複雑な生い立ちながら、常に穏やかな表情で家族を支えるというあの役を、もしも20代の時に演じていたら――もっと一所懸命そこに存在しようとしていたかもしれない。でも40代の僕が、ただスッとたたずんでいられるようになったのは、きっと自分の内面が拡大したからだと思うんです。

快活な役ばかりが続いた時は、「違うキャラクターもできるのにな」ともどかしさを感じたこともありますが(笑)、そういうことじゃなかったんですね。最近では、世間が僕に抱いているであろう、エネルギッシュなキャラクターとは真逆の役柄の依頼も増えてきました。僕からにじみ出る新しい何かを見て、制作陣の皆さんがオファーをしてくださっているのであれば嬉しいなと思います。