サッカー部に送られる声援に負けないで聞こえたのだから、三井も相当だ。足立は「硬式テニスよりも応援団長の方が向いてたりしてな」と言った。
 向いているかもしれない。それは否定しない。だが俺はそんな三井がまあまあ好ましいと思う。
「お、吹奏楽部も来た」
 ランニング中の吹奏楽部は校庭の横の道を走り抜け、右に折れてテニスコートの脇を駆ける。三井の声がまたもや聞こえた。吹奏楽部の連中を励ましているのだった。テニスの練習は中断しているようだ。俺らと同じだ。
「やっぱあいつ応援団だわ」足立は腹を抱えて爆笑した。「あの井ノ川にも声かけするとか」そこだ。
 俺はそういうところが三井のすごさだと思っている。あいつは井ノ川相手でも他のクラスメイトと同じように振る舞える。そういうやつは滅多にいないことを、小中高と学校生活を送って来て気づいた。
「いつまでサボってんだ富岡、足立」
 顧問の先生に怒鳴られてしまった。俺らは基礎練習を再開した。

 *

 吹奏楽部が構内一巡りのランニングを終えて校舎内に戻ってから十分と少し。
 三階の音楽室からアルトサックスの音が流れ出した。続いてクラリネット、ホルン、トランペット、フルート。音出しが始まったのだ。
 もうあそこに戻ることはない。春休みの前に退部した私を、あいつらは惜しむのか。新入部員がみんなポンコツで、一度くらいは経験者の音があればと思ってほしい。でももう遅いわけだけど。私は戻らない。ざまあみろ。
 ざまあ展開を想像するのは楽しい。虚(むな)しくなんてない。
 三年生になって、あいつらとクラスが別れたら少しは平和だったのかもしれない。でもまた同じクラスになってしまった。私は暇さえあれば思い知らせることを考えて、さっきいいことをひらめいた。天啓のように。教室の壁に貼られた年間予定表を眺めていたときに。
 あの遺言墨の都市伝説。白麗高校の誰もが知っているあれを利用するのだ。
 八月末に催される学校祭の最終日、私たち三年生はクラスごとにタイムカプセルを埋めるらしい。それに爆弾を仕込んでやるのだ。何年後かわからないけれど、同窓会で開封されるであろうタイムカプセルなんて、時限爆弾にうってつけじゃないか。
 あいつらは間違いなく同窓会を楽しみにする。陽キャでカースト上位だから。そういうやつらにノーマークの場所から冷や水を浴びせる。あいつらの仕打ちは忘れない。何年経とうが私の傷は絶対に癒えない。
 大人になって順当に生きている日常をめちゃめちゃにしてやる。私が復讐するんじゃない。あいつらは自分たちの過去に復讐されるのだ。私は悪くない。
 牙を剥かれると知ったら、あいつらは慌てて許しを乞うかもしれない。あいつらが私にごめんなさいどうか許してくださいと土下座し這いつくばる様。愉快すぎる。なんて楽しい想像。
 あんたたちはせいぜい慄(おのの)いて後悔すればいいよ。この同窓会、やらないほうがいい、やらなければよかったって。私を彼女や友達にしとけばよかったって。
 でももう遅い。決めた。ざまあエンドで私は逆転勝利する。
 許さない。