ドイツで活躍していた頃の室井さん

ドイツ人が「おらが国のシュトルツ(誇り)」とするベートーヴェンで私がリサイタルを開くなど、いわば歌舞伎座で外国人が『勧進帳』を演じるようなものでしょう。自分にできるのか悩みましたけれど、リサイタルは思いのほか好評で。それから20年にわたり、ドイツを拠点に世界13ヵ国で演奏活動を続けることになりました。

ただ海外で「摩耶子のリズム感覚は日本人離れしている」「祖先にヨーロッパ人がいるのか」なんて言われると、ちょっと反発も覚えましたね(笑)。向こうは褒めてるつもりかもしれないけれど、「いいえ、私は生粋の日本人です」という誇りを持って、演奏活動を続けてきたつもりです。

 

野菜の付け合わせとともに100gの牛フィレステーキを

私が帰国したのは、80年ですが、日常生活にはドイツ時代の習慣を残しています。その一つが、シエスタ(昼寝)。昼食をとったら、午後1時から3時間くらいソファで横になってぐっすり眠ると、また夜まで活動ができます。

食生活もそう。ドイツで私はすっかり肉食人種になりました。それも、フィレ肉のステーキがいちばん。お金がない頃は安いスープ用のすね肉でもいいかと思ったけれど、フィレ肉は与えてくれるエネルギーが段違いとわかってからは、多少お金はかかっても良質なフィレ肉を食べるようにしています。

今も午前に2時間、夕食後に2~3時間ピアノの練習をしますが、「夏だからさっぱり和食でも」と思ってお肉を食べないと、集中力が1時間と持ちません。でもお肉を食べれば、2時間でも3時間でも集中して弾き続けられます。

お昼か夕食に、野菜の付け合わせとともに100gの牛フィレステーキをいただくのが、毎日の定番です。まあ暗示という面も大きいのかもしれないけれど、これで100歳まで元気でやってこれたのだから、私の体には合っていたということなのでしょうね。