見るに見かねて福岡へ引き取ることに
実家の財産を独り占めしたかった跡取り夫婦にとって、父の存在は邪魔でしかなかったのだろう。父がいくら訴えても、まともに取り合おうとはしなかった。しまいには父のことを「ボケてきた」と言い出し、病院で脳波の検査を受けさせ、その後、精神科病院で診察を受けるように仕向けたのだ。
誰の付き添いもなく、一人で精神科に通院していた父。その当時の父の顔は、まるで岩のように無表情だった。
私は居ても立ってもいられなくなり、福岡に父を引き取る覚悟を決めた。父を呼び寄せてからは、義妹からの電話や手紙はなし。跡取りから「敷居をまたぐな」と言われた父は、それから亡くなるまでの5年間、一度も自分の家へ帰ることを許されなかった。
父の体力が徐々に弱ってきた頃、跡取りが突然、福岡に行くと言ってきた。「今から行く」と言われても、こちらには病院での検査など予定が入っている。しかし跡取りには、都合のいい日を相談して決めるという考えは微塵もない。正しいのは常に自分。お前らは黙って従っていろ、と考えているのだ。
父の代もそうだったが、子の代でも、私の実家では長男に権力や特権が集中している。下の弟がアルコール依存に陥ったのも、きっと小さい時から都合の悪いことを跡取りに押しつけられ、いつも代わりに親に叱られていたからに違いない。