コンピューターの処理能力が高まれば高まるほど、雇用の空洞化は加速する。
『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット 池村千秋・訳 東洋経済新報社)

日本には100歳以上の高齢者が8万6510人

「人生100年時代」と言われるようになったのは、2016年に出版された「100年時代の人生戦略」という副題がついた『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット 池村千秋・訳 東洋経済新報社)がきっかけではないかと思います。その「日本語版への序文」に、こう書かれています。

〈日本は、世界でも指折りの幸せな国だ。世界保健機関(WHO)の統計によれば、ほかのどの国よりも平均寿命が長い。所得や人口、環境の質など、世界の国のランキングにはさまざまなものがあるが、平均寿命というきわめて重要な基準で日本はトップに立っている〉

日本が本当に幸せな国なのかはさておき、日本人の平均寿命が長くなっていることは事実です。100歳を迎えた人には総理大臣から銀杯が贈られるのですが、対象者があまりにも多くなったため、2016年以降から銀杯を純銀製から銀メッキに変更したという情けないエピソードもあります。2021年9月の時点で、日本には100歳以上の高齢者が8万6510人いるのです。そして、その88%は女性だそうです(厚生労働省が公表)。

人間の寿命は今後も延び続けるのかというと、前回紹介した『LIFESPAN 老いなき世界』にも通じることですが、科学とテクノロジーが進歩すれば、平均寿命は何百年にも達する可能性があるという楽観論者がいる一方、栄養状態の改善と乳幼児死亡率対策の大きな前進はこれ以上望めないから、肥満などの繁栄の病によって、平均寿命の上昇は足を引っ張られるという悲観論者もいるそうです。『LIFE SHIFT』の著者たちは楽観主義者に近く、平均寿命は110〜120歳くらいまで上昇を続け、その後延びが減速すると予想しています。

著者のリンダ・グラットン氏、アンドリュー・スコット氏ともに、ロンドン・ビジネススクールの教授ということもあり、『LIFE SHIFT』はビジネスを主体に書かれています。テーマは、長寿化の時代に「良い人生」を送るにはどうしたらいいかということです。「良い人生」とは、優しい家族と素晴らしい友人がいて、高度のスキルと知識を持ち、心身ともに健康に恵まれ、お金にも不自由しない生活を送ることだそうです。その定義に異議を申し立てたい気持ちもあるのですが、ビジネス書だから仕方がないのかもしれません。