札幌の「宮の森ミュージアム・ガーデン」(休館中)で根本敬さんの新作を観る。

もっとのんびり、しかも優雅に生きるすべはないのか

この本には、それぞれ年代が異なった3人の架空モデルが登場します。1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーンです。ジャックは62歳で引退し、2015年に70歳で世を去りました。教育→仕事→引退という3ステージの人生が最もうまく機能した時代を生きたのでした。

ジミーは平均寿命で85歳まで生きられます。50歳になったジミーもジャックと同じように教育→仕事→引退という3ステージを考えていて、65歳で引退するつもりでいますが、引退するには蓄えが足りないと思い知らされています。企業年金制度を設ける企業が減り、ジミーも企業年金が受給できないからです。さて、どうしたらいいでしょうか。

ジェーンはまだ大人の世界へ一歩踏み出したばかりです。平均寿命で100歳以上生きることになりますが、おそらく60年は働き続けなければならないでしょう。それまで活力が維持できるのでしょうか。

この3人の人生をシミュレーションしたのが『LIFE SHIFT』ですが、あまりにも複雑過ぎて簡単には説明できません(興味ある方は本を読んでみてください)。著者からジェーンへの助言、つまりこれから社会に出る人に対しての助言は、「テクノロジーの進歩によって消滅しない職につきなさい」ということです。ロボットや人工知能より優れた課題処理能力を持っている「人間が絶対優位」の仕事を選べということになります。余暇の時間はレクレーションにではなく、リ・クリエーション(再創造)するために使いなさいと言います。75歳から85歳ぐらいまで働くには、その時々の状況に応じて新しい知識を身につけ、新しいスキルを習得する必要があるからです。

正直、この本を読んだら疲れがどっと出てきました。競争社会の中で生き残るために、日々新しい知識とスキルを身につけなければならないのです。ぼくにはとても無理です。ぼくだけでなく、それができない人も大勢いるはずです。ビジネスの世界ではそうしないと脱落していくのでしょうが、もっとのんびり、しかも優雅に生きるすべはないものなのでしょうか。

「できれば100歳まで生きてみたい」とぼくが思うのは、新しい知識の習得でもスキルアップでもなく、自分がやりたいことだけをして生活しながら、世の中がどう変わって行くか見たいと思うからです。それと、自分の世界を広げることでコンプレックスから抜け出し、もっと自由になりたいからです。そのために読みたい本を読んだり、映画や芝居を見たり、音楽を聴いたり、空を見つめていたりしたいのです。『LIFE SHIFT』を読んでそういう気持ちになったので、反作用的にぼくに生きる力を与えてくれた本だと言えるかもしれません。