命の危機を感じた心筋梗塞

帳尻合わせということでいえば、同じく57歳の時に患った、心筋梗塞もそうだったと思います。まさか自分の身に起こるとは思ってもいなかったけれど、さまざまな責任からくるストレスが長い時間を経て病気という形で出てくるのだと痛感したんです。《健康貯金》という言葉がありますけど、本当ですね。お金は貯められても、健康は目に見えないものだから、意識的に大切にして生きないと、ツケが回ってくる。

自宅で倒れ、すぐに救急搬送してもらえたから助かりましたが、もしかしたら命があっけなく終わってしまっていたかもしれない……。あの時、子どもたちは皆、急いで駆けつけて、緊急手術の前も入院中も、ずっと付き添ってくれました。

40歳で一度は子どもたちと物理的に離れて、卒母したつもりだった私ですが、精神的にようやく子離れできたのは、心筋梗塞で倒れる半年ほど前のこと。子どものためならなんでもしたい! という気持ちを抑え、見守るモードに切り替えました。

だからこそ、それぞれ自立して暮らしている子どもたちが病室に集まり、励ましてくれたことがうれしかったのです。離れていても、思い合っている。家族の愛を感じました。

今も、子どもたちとはいい関係を築けていると思います。でも、家族といえど、適度な距離を保つ。子どもを信用し尊重し、依存し合わないことって大切なのではないでしょうか。

私たち親子は職業も事務所も一緒なので、「家庭」と「仕事」の境界を曖昧にしないということも心がけています。私は仕事となると違う人に変身して、母の顔ではなくなる。「はい、わかりました」などと、自然と敬語で話します。それはあの子たちの仕事に向かう考えや姿勢を、尊敬しているから。それに、遺伝子的には子どもは両親それぞれのいいところを持って生まれてくるので、両親よりも優れた生き物だとか。ま、経験は私のほうが上ですけどね。(笑)