引退を考えたこともあるけれど
私は女優ですが、若い頃からやりたいことだらけ。写真家、短編映画の監督、アート・ディレクター、フリーペーパーの編集長と、いろいろな表現に挑戦してきました。そんなに手を広げないで絞ったら、と言われることもありますが、できない。湧きあがってくるものは止められない性分だから。(笑)
自分の才能には、自分が一番気がつけるはず。それを見つけられるかどうかだと思います。だから、私はいまだに自分の才能を探しているんです。
最近では、音楽活動に力を入れています。歌い手として、どう音楽で表現したらいいのか悩んだこともありましたが、20代のミュージシャンが「美由紀さんはもっと自由な人だから、自由にやればいい」と言ってくれて。よし! と全編アドリブのライブに挑戦しました。
10月、還暦を迎える誕生日にライブをやるのですが、そこでもシャンソンやジャズ、朗読を織り交ぜて、ジャンルレスな新しい世界を表現します。私がこれまでの人生で培った、私にしかできない歌を届けたいと思っています。それにこのライブには姉で女優の熊谷真実ちゃんがゲストに。初共演も楽しみです。
今、一番挑戦したいのは、長編映画を撮ること。母の物語を描きたいんです。戦後の東京・杉並区で洋品店をやっていたのですが、同じ商店街で暮らしていたねじめ正一さんが、以前、母をモデルにした小説『熊谷突撃商店』を書いてくださっています。明るくてエネルギッシュで、情の深かった母。脚本も書き始めました。
最初、60代に入る不安を口にしましたが、お話ししているうちに気分が上向いてきて、「なんだ、やる気がみなぎっているじゃん」とわかりました。仕事だけでなく、次世代のためにも、環境問題やSDGsへの関心を常に持って、貢献していきたいし……。ほら、私の話、聞いているだけで、めまぐるしいでしょう。(笑)
仕事柄、老いていく姿をさらして社会とつながっているのはイヤだと思い、引退を考えたこともありました。でも、ありのままを見せるのも大事なこと。私の持つ感覚や経験値を伝えることで、誰かの役に立つかもしれないと思い始めました。子どもたちからは「仕事をやめて、ゆっくりしてもいいんじゃない」と言われたりもしますけど、無理かも!(笑)
喜びも悲しみも抱えながら、自分の命が少しでも人の役に立てばという意識で、人生を使い切って優作のもとへ逝く。そう強く心に決めています。