「パパ、まだおうちにいるの?」
大進 僕はけっこう子どもと過ごす時間を作っているほうだと思うけど、20年はとくに子育てに関わったなあという実感がある。3月に1回目のロックダウンが行われた時から、コンサートはすべて中止に。無観客での公演収録はあったけれど、各地のツアーがすべてキャンセルになったから、家で過ごす時間が増えて。生活がまったく変わってしまった。
りあ 私も19年12月にミュンヘンのオペラのオケで演奏した後は、それまで毎月のようにあったドイツ各地での演奏会がすべてキャンセルに。ロックダウン中は、子どもたちが、「パパ、まだおうちにいるの?」って何度も訊いていたわね(笑)。朝も昼も夜も一緒にご飯を食べられて、絵本の読み聞かせまでパパがしてくれるのが新鮮だったみたい。
大進 1回目のロックダウンの頃は、幼稚園も公園も閉まっていたから、家族全員でずっと家にいたよね。子どもたちとお相撲を取ったり、「アンパンマン」のメロディーを弾いてあげたりした。(笑)
りあ ベランダに簡易お砂場を作って、泥遊びをさせたり。
大進 観客の方を入れて演奏できないのはつらかったけど、いろいろとやることもあったから、落ち込んでいる暇もなかった。子どもが寝た後にしか考える時間がないというのも、よかったのかもしれないな。
留守中に起こった大事件
――大進さんとりあさんは、フランスで知り合い、2007年に結婚。3年後、大進さんがベルリン・フィルのコンサートマスター(楽団員のまとめ役)に1年の試用期間を経て正式就任したことで、夫婦の生活は大きく変わる。だが、お互いに音楽家だからこそ、結婚生活もうまくいっていると二人は言う。
りあ 私がドイツ各地に演奏の仕事で出かける時は、あなたが子どもたちの面倒をみる。泊まりがけになることも多いけれど、もう手慣れたものよね。
大進 だけど、ママの不在中にお姉ちゃんの具合が悪くなることが多いんだ。ほら、事件があったでしょう。
りあ うん、覚えてる。私がオペラの仕事で出かけた時のこと。
大進 お姉ちゃんがなかなか寝なくって、ぐずってね。構わず知らんふりをして、「あれ、静かになったなあ?」と見たら、顔じゅう血だらけ!
りあ 深夜に電話をかけてきたわよね。「どうしよう、大変なことになった!」って。あんなに慌てているあなたは初めてだった。(笑)