卓球で体を動かして

「人生の再起動」のきっかけに

「SHIGETAハウス」の代表理事でもある繁田さんは、医療や介護サービスとは違う場で集うことに大きな意味があるという。

「認知症と診断された時、医療従事者や介護者は、医学的にはどうなのか、ケアの理論からどうすべきかを考える。けれど、それがその人の人生より優先されると、人間本来の情緒的な関係が薄くなる。すると介護者も本人も孤独になります。逆に、医療や介護保険サービスから離れ、人と人がもう一度つながり直す場が、『SHIGETAハウス』のようなところではないか。認知症の専門家が、患者さんが病気を忘れられる場所を提供することもできる──それが私自身の一番の発見でした」

「平塚カフェ」がオープンすると、近くの塾に通う子どもたちが帰り道に訪ねてくるようになったそうだ。広々とした古い一軒家で自由に過ごすのが楽しいのか、認知症の人と一緒に卓球をしたり、お菓子をもらったりする子も。

「子どもたちは、認知症に対する偏見がないですね。だから認知症の人たちも、子どもとは過ごしやすいのだと思います」と繁田さん。

いずれもっと地域に開かれた場所として育ってほしい。そう願っていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大により神奈川県に緊急事態宣言が出され、カフェを一時閉めざるをえなくなった。

「昨年の緊急事態宣言で活動を休止した時は、今まで平塚カフェに来てくれていた人たちのことが気になり、電話やLINE、Zoomで連絡を取り合い、その後『オンライン平塚カフェ』を始めることにしました。今年の8月からの休止期間は、『毎週火曜日に1時間、オンラインでのお話し会』を開くことに」と早川さん。そういったことができるのも、利用者とそれまでのつながりがあり、信頼関係が築かれているからだろう。

繁田さんも、再び集える日を待ち望んでいる。「『SHIGETAハウス』は、生活支援をする施設ではなく、どう認知症と向き合っていくかを考える場所。大げさな言い方かもしれませんが、僕は『人生の再起動』のきっかけになると考えているのです。一日も早く、そういう場を再び提供できるようにと思っています」

全国にこのような場所が増え、地域の人々と認知症の当事者や家族が支え合える社会になることを望んでやまない。

※SHIGETAハウスプロジェクトが行っている事業の一部は、令和3年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業を受けて実施しています