苦労をして仕事を続けても「自分はよい母ではない」

「両立」というテーマで取材する中で感じたことは、周囲の環境というのはかなり大事になってくるということだ。

「自衛隊に入る理由は国防という理念への賛同かもしれないけど、それだけじゃ続けられない。続ける理由は人間関係」

「続けられるかは環境による。1回でも『当たり』を引くと続けられる。ただ最初が悪いと『もうダメだな』って思ってやめていく印象がある。後は同期に女が多い方がやめないかな。女が女を守らなくちゃいけない。もちろんそういう人は女子が甘えてたら、それはそれで厳しく指導するが、そういう人が幹部でも曹でもいいから必要」

「今、上の意識も変わりつつあるけど、えらい人で女性に理解があるのは半々くらいかな。理解がない人に当たると相当キツい」

現役自衛官からも「自分の周りは理解のある人ばっかりだったけど、理解のない人に当たっていたらやめていたかもしれない」という声はあった。

加えて、このように大変な苦労をして仕事を続けても、「自分はよい母ではない」と話す者は多い。「子どもに寂しい思いをさせた」というのだ。

この「幹部自衛官の母親はよい母親か」という問題は正直なところ難しい。私からすると「働いていてかっこいいお母さんだよ」「あなたの子どもでいられて、子どもも幸せだよ」と心から思うが、結局のところ、自分や他人がどう思っていようが、子ども自身がどう考えるようになるかにもよるからだ。どれだけ愛情を持って育てようが、「お母さんがいなくて寂しかった」と思う子どもがゼロになるとは思えないし、逆にどれだけ仕事に邁進しようが「お母さんかっこいい!」と思う子どももいるだろう。

私の取材の中では、後者の方が圧倒的に多かった。

「子どもが三人いて、一番上には下と一緒に留守番をさせたり負担をかけたけど、ある日『お母さんはふつうじゃないけどかっこいい』と言われた。自分が持っていた『よいお母さん像』は子どもが持っているそれとは違うのだと今更ながらに気付いた」

「子どもも子どもなりに、母親の仕事をよく理解してくれている。ちょっとご飯の手を抜いたからといって子どもが不良になるわけでもないし、悪い母親ではないということが分かった。『〜しなくてはならない』ということは何一つなかったのだと知った」

女子一期代の現役幹部はこう話す。

「確かに子どもが生まれれば、仕事の時間に制約が生まれる。でももう子どもが大分大きくなって、『あのとき誰かが引き受けてくれた仕事を、今自分がするんだ』と思って仕事をしている。制約がある期間をマイナスにだけ考えずに、生涯を通じたワークとライフのバランスを考えればいい」

※本稿は、『防大女子―究極の男性組織に飛び込んだ女性たち』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。


『防大女子―究極の男性組織に飛び込んだ女性たち』(著:松田小牧/ワニブックスPLUS新書)

防衛大学校全学生中、女子学生の割合はわずか12%。一般の「女子大生」とまったく違う世界に飛び込んだ彼女たちの生活や苦悩、喜びや課題を自身が「防大女子」だった著者が詳細に描く!