「私、自分のなかに役の人間像ができてくれば、あとのセリフ覚えは<作業>だと思ってるの。」(草笛さん)

天海「本当になぐってやろうかと」

草笛 覚えるのって、イヤよねえ。私、自分のなかに役の人間像ができてくれば、あとのセリフ覚えは「作業」だと思ってるの。

天海 それはわかる。

清水 でもセリフによって、覚えにくいものもありそう。書き言葉としゃべり言葉が違うとか、自分に合う合わないもあるだろうし。

天海 これはまだ映像の経験が少なかったころの話なんですけど、ある作品でご一緒した俳優さんがセリフをまったく覚えてきてなくて。そうしたら悪びれるふうでもなく、耳にイヤホンを入れたんですよ。いまなら「いろいろ大変なこともあるよね」と思えますけど、当時は血気盛んだったし、セリフを覚えるのはお仕事として最低限のことだと思っていたから驚いて。本当に殴ってやろうかと思っちゃった。あれは忘れられない。

草笛 『光子の窓』は生放送だったでしょう。ある有名な男の歌手の方が、やっぱり覚えないできて。演出がしゃべるのをイヤホンで聞いてからセリフを言うの。だから次のセリフまでにちょっとした間ができるのよ。この間がよかった。

天海 へえー。

草笛 暗黒街の顔役みたいな役だから、間があるとすごく貫録が出るの。こっちは苦労してセリフを覚えてきてるのにね。だからそういうことをしてもさ、うまく見せられるならいいんだけど。