いい役者は舞台に出るだけでいい役者

天海 三木のり平さんがお茶碗の内側にカンペを貼ってたのは、有名な話ですよね。共演者が見せまい、とわざとごはんを盛る。それでも上手にご覧になるんですって。

草笛 私、のり平さんとずっと一緒でしたから。2人でお白洲で頭を下げ続けるシーンで、「はー」って言いながら下に貼ってあるセリフを見てる。1ヵ月半すぎてもまだ見てるから、ある日、「さいでございますか」って言いながら肘でわざと隠したのよ。

清水 こら、こら。(笑)

草笛 ちっちゃい声で「そんなことしたらわかんなくなっちゃう」って。でも、結局全部言えたの。

天海 本当はセリフは入っているけど、保険なのね。

草笛 それと、最近は舞台の横にセリフが出るのよ。知ってた?

天海 プロンプターみたいものが? 知らなかった。

草笛 カーテンの内側だから、客席からは見えないの。最初はね、それを見たら自分が傷つくと思って「イヤです」って抵抗した。でも演出家に「見てないふりをして見ろ!」って怒られて。試しにチョロッと端だけ見たら、「あ、次はこれか」ってセリフがパッと出る。

天海 なにげなく見るのも、技術がいりますよ。

草笛 「セリフを覚えられなくなったら役者を辞めよう」とか「覚えられないから、もう私はダメだわ」って話したとき、その演出家に「セリフなんて覚えなくたって、いい役者は舞台に出りゃあいい役者なんだ」って言われたの。

天海 すごい名言。

草笛 ハッとした。そういうことでビクビクしたり、いじけなくていいんだわって。

天海 演技とセリフ覚えは、別ものですから。そんなことで役者を辞めるなんてもったいないですよ。

草笛 だからね、ちょっとだけ目の端に入れれば、とってもうまく見せられるんです。(笑)

清水 やっぱり草笛さんとお話ししていると、歳をとることがますます楽しみになります。お2人ともますますお元気で!


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