「思い切り笑って、ちょっぴりうるっとして、時には主人公と一緒に怒り――暗い劇場から出て、明るい陽射しを浴びた時、《あぁ、明日もがんばろう》と思ってもらえたら」(撮影=鍋島徳恭)
10月30日公開『老後の資金がありません!』で主人公の主婦・篤子を熱演している天海祐希さんは、現在発売中の『婦人公論』10月26日号の表紙を飾っています。コロナで、家族の大事さに改めて気がついたという天海さん。毎日のように続いた母との電話で、家族だからこそ、ちゃんと言葉で伝えることが大事だと実感したと言います――。発売中の『婦人公論』から記事を掲載します。(撮影=鍋島徳恭 構成=篠藤ゆり)

2年前の撮影時には想像もつかない現実が

映画『老後の資金がありません!』で、主人公の主婦・篤子を演じています。主婦は、子どもや夫のこと、家のことを優先して、自分は後回しにしがちですよね。家庭の状況次第では、ちょっと気分転換したいと思っても、なかなか時間がつくれない時期もありますし。

篤子もまさにそう。舅の死後に引き取った姑は浪費癖があり、夫はリストラに。娘の結婚費用もばかにならず、老後資金が消えていく。次々と押し寄せる難題に、時に怒りながらも一所懸命立ち向かっていく姿が健気で、演じながらすごく応援したくなりました。

鬼の形相でボーリングの玉を投げる天海さん(ⓒ2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会)

撮影したのは2年前。「老後資金として2000万円なければ大変かもしれない」という現実をつきつけられ、多くの人が老後に不安を持っていた時期でした。ところがいざ公開という段になり、コロナという思いもよらない現実が押し寄せてきたわけです。

この2年弱の間、今まで普通に会えていた人と会えなくなり、出かけたいところに出かけられなくなり――それまで当たり前だと思っていたことは、決して当たり前ではなかった。すごく恵まれていたんだと感じました。

私には夫や子どもはいませんが、家族の大事さにも改めて気がついた。とくに昨年は、毎日のように母に電話をかけていました。