娘への対抗意識を燃やして

吉永 お父さんは、ご健在ですか。

桜木 80歳過ぎても新しい商売の話をするくらい、元気です。ありがたいのは、過去にあれだけ壮絶なケンカをしながら今も2人は一緒に暮らしていること。母は今、父が毎日帰ってきて自分のそばにいるのが単純に嬉しいみたいです。

吉永 母というより、女の部分が強い人だったということかしら。

桜木 ええ、タクシーの運転手に口説かれたという《女として輝いていた過去》は鮮明に覚えているみたい。娘の私に変な対抗意識を燃やしたこともあります。私が和裁を習えば、自分は着物を集める。私が夫から婚約指輪をもらえば、自分も指輪を買い始めるという感じで。

吉永 でも娘として、母親の「女」な部分を見せられるのってしんどくないですか。

桜木 本人としては巧妙に隠していたと思います。それが小説を書いている時、「そうだったのか」と明らかになることが多いです。

 

母が歩んだ人生が娘に影響する

吉永 うちの場合、私が9歳の時に、母が私の「妻」になっちゃったんですよね。

桜木 えっ、どういう状況なんですかそれは。

吉永 母は私が生まれる前、未婚で産んだ女の子を8歳で亡くしています。その後女一人で苦労したから、正式な結婚をして「子どもを持ち直す」って決意したらしいのね――死後に見つけた日記にそう書いてあった。そこでやもめの父と再婚して40歳で私を産んだわけなのだけど、父はその時60歳。かなり高齢だったわけです。

桜木 そうでしたか。