もとは処刑具だった「十字架」

十字架は英語でクロス(cross)と呼ばれるが、語源はラテン語のcruxである。新約聖書の言語であるギリシア語ではスタウロスと言う。

『宗教図像学入門-十字架、神殿から仏像、怪獣まで』(中村圭志著/中公新書)

罪人を固定して死ぬにまかせる棒杭だが、腕を打ち付けるために横木をT字形あるいは十字形に組み合わせてある。腕を広げた罪人の頭は自重でだらりと下がり、息ができなくなって死ぬ。凄惨である。

英語crossは×印や交差点など「十字形」の意味を派生させたが、ラテン語でもギリシア語でも「十字形」を指す言葉ではなかった。この処刑具に罪人を打ち付けることをラテン語でcrucifixio(クルキフィクシオー) と呼び、「磔(はりつけ)」と訳す。

ただし漢語「磔」は体を引き裂く刑で、日本語「はりつけ」は、地面か板に張り付けて釘などでとどめをさす刑なのだそうだ。

福音書の記すところでは、ナザレのイエス(紀元前4年ごろ~後30年ごろ)はユダヤ人宗教家として「神の国」の到来を告げ、民衆の病気治しを行ない、愛を説き、偽善的な宗教社会体制を批判した。

そのため祭司たちによって冒涜(ぼうとく)者として裁かれ、最終的に実質的支配者であるローマへの反逆者として十字架にかけられた。

死後に復活の噂がたち、イエスの死は人類の罪を贖あがなうものとして神学化された。最初のうち、信者はユダヤ人に限られていたが、やがて様々な民族に伝道が進み、ユダヤ教本体から切り離されて独立の宗教となった。4世紀にはローマ国教となるまでに成長した。