伝道の快進撃を意味する「法輪」

仏教の代表的なシンボルマークである法輪は、開祖の釈迦(紀元前463年ごろ~383年ごろ)が35歳で悟りをひらいて弟子に教えを広めたことを象徴する記号である。

インドのサンスクリット語でダルマ・チャクラと言うが、ダルマは法すなわち真理の教え、チャクラは輪である。戦車の車輪であるとも、手裏剣のような円盤型の武器であるとも言われるが、いずれにしても教えがどんどん広まっていくことを意味する。

仏伝によれば、釈迦が菩提樹の下で悟りをひらいたとき、自らの悟りがあまりに深遠なので誰も理解してくれないだろうと考え、伝道布教を躊躇(ちゅうちょ)した。このことを知った神ブラフマー(梵天<ぼんてん>)は、釈迦の前に急行し、ぜひとも教えを説いてくれと懇請する(これを梵天勧請<ぼんてんかんじょう>と言う)。

そこで釈迦は考えを変えて、昔の修行仲間を最初の弟子とした。この最初の説法の出来事を初転法輪(しょてんぼうりん)と呼ぶ。教えの車輪を初めて転じた、ということである。

初期の仏伝レリーフでは、説法する釈迦の位置に人の姿はなく、代わりに法輪がある。釈迦その人を描くことはタブーとされており、法輪が釈迦の代理的な表象となったのだ。