宗教のシンボルに秘められているもの
世界宗教地図などで分布が描かれる伝統的宗教としては、他に、中東生まれのユダヤ教、ゾロアスター教、インド生まれのジャイナ教、シク教、東アジア生まれの儒教、道教、神道などがある。
【ユダヤ教】
カゴメ形の「ダビデの星」をシンボル的に用いるようになったのは案外と新しく一四世紀のことだという。一七世紀に一般化し、一九世紀にヨーロッパ社会で定着した。紀元前一〇世紀ごろのイスラエルの王ダビデの楯に星が刻まれていたことにちなむとされる。七枝の燭台メノラーの形などもユダヤ教のシンボルとなっている。
【ゾロアスター教】
紀元前一千年紀からあるペルシア生まれの宗教だが、フラワシと呼ばれる守護霊がシンボルとして使われる。ゾロアスター教は中世以降衰退し、現在ではインドのムンバイ付近にパールシー(ペルシア人)の名で暮らす少数の信者がいる。
【ジャイナ教】
仏教と並ぶ古さを誇るこの宗教のマークが採用されたのは一九七四年とごく最近のことだ。天と地と地獄を示す輪郭、解脱(げだつ)を示す点、正しい信念、知識、行為を示す三点、輪廻(りんね)の四種の生態を示す卍、不殺生(アヒンサー)を象徴する法輪つきの手などから成る。
【シク教】
イスラム教の影響のもとに一六世紀にヒンドゥー教から派生したシク教のシンボルとしてはカンダがある。両刃の剣、片刃の剣二本、円形の飛び道具を組み合わせたもので、もともと軍事的な象徴であったが、現代になってシク共同体のシンボルとなった。
【儒教と道教】
紀元前六、五世紀の孔子を開祖とする儒教、そして通例セットで実践されている民間信仰的な道教にはっきりとしたマークがあるのかどうか分からない。ただ易経(えききょう)の陰陽の概念に由来する太極(たいきょく)図は、しばしば両宗教と結びつけられている。
【神道】
神社の前に置かれる鳥居は明治期に神社の地図記号となった。とくに厳島神社にあるような朱塗りの鳥居の図像は神道の印として国際的によく知られている。
以上、諸宗教のマークの多くは、比較的近年になって他宗教との識別のために採用されたものである。とはいえ、採用された図形そのものには、多くの場合、歴史的な由緒があり、教理や理想が封入されているのである。
※本稿は、『宗教図像学入門―十字架、神殿から仏像、怪獣まで』(中公新書)の一部を再編集したものです。
『宗教図像学入門―十字架、神殿から仏像、怪獣まで 』(著:中村圭志/中公新書)
異文化理解に欠かせない宗教図像の知識を「異形の神々」「聖なる文字」「終末の描写」などのトピックごとに一挙解説。200点を超える図版とともに、宗教文化の奥深い世界を案内する。