寝るとき以外はリビングに居座る

息子を出産後も両親とのかかわりは極力避け、老後の面倒を見る気など毛頭なかった。ところが15年前、父がパーキンソン病を発症して長期療養施設へ。その4年後には母がくも膜下出血で半身マヒとなる。

「両親の経済状況では夫婦とも施設に入所するのは無理。当時、母の住まいは賃貸アパートの2階だったので、車椅子も使えずひとりでは暮らせない。仕方なくウチで引き取ることにしたんですが、正直、心穏やかな日は一日もありませんでした」

麻衣子さんの自宅は狭小住宅と呼ばれる3階建て。トイレと浴室のある1階の部屋は狭い納戸だけだ。自力で階段が使えない母のために納戸内の家具や衣類を捨ててベッド一台分のスペースを作ったが、「こんなところはイヤ」と文句ばかり。

麻衣子さんが「じゃあ出てけ」と怒れば、「お金がない」と開き直ったり、「あなたはなぜイライラしてるの?」と話をすり替えたりする。

「私は強く言い返せるからいいけど、毎日のように母娘のいがみ合いを見せられる夫と息子はかわいそうでした。母は寝るとき以外はリビングに居座るから、自分の家なのにゆっくりご飯を食べたり、好きにくつろいだりできない。仕事から疲れて帰宅した作業着姿の夫に、母が『汚いわ。着替えていらして』と平然と言ったときには、怒りが爆発しました」

身勝手で意地の悪い母にストレスを募らせた夫は円形脱毛症になり、心臓のカテーテル手術まで受けた。息子は「ひとりだけの空間がほしい」と一時期ベランダにテントを張って過ごした。自分が苦しむならまだしも、家族まで巻き込んで追い詰められる、それが麻衣子さんにはなによりつらかった。