「もう十分やった。あとは施設に任せなさい」
ようやく出口が見えたのは2年前、父が亡くなったときだ。葬儀の場で親戚から、「もう十分やったよ。あとは施設に任せなさい」と言われ、母と離れる決心が固まった。
「父の介護費がなくなって余裕もできたし、早速、施設探しをはじめました。庭付きで居室が広い施設を見つけ、メリットを強調して母を説得。実は母自身、納戸の狭さに耐えられなくなっていたようで、渋々同意してくれたんです」
感染予防のため面会禁止がつづき、電話や手紙のやりとりもない。職員からの定期連絡で元気な様子を知る程度だが、麻衣子さんは母から解放された幸せに浸っている。
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体力に気力、お金も必要な介護はきれいごとでは済まない。確執のあった母ならなおのこと、かかわるか、離れるか、むずかしい選択を迫られるだろう。過去の苦悩を乗り越え、あらたな母娘関係を築くにはどうすればいいのか。老いた母への憎しみと憐れみ、自分自身の責任感や罪悪感。さまざまに揺れ動きながらも、娘たちは介護という現実に向き合おうとしている。