「いくつになっても人の役に立ち、求められている実感があると、また生きていこうという気持ちが湧いてくると思います。」(樋口さん)

70代は「老いの働き盛り」

酒井 老後を明るく過ごすには、行動力も必要か、と。でも自分を振り返ると、最近新しいことにチャレンジする気力が徐々に落ちてきた気もします。

樋口 私は、正岡子規の妹・正岡律の生き方に感銘を受けました。律は病気の兄の介護をし、尽くしてきた。子規に頼まれ、毎日、新聞を読んで聞かせますが、子規は「律は漢字を知らない」とバカにします。しかたないですよ。女子だから小学校に4年までしか通えず、早くに嫁に出されて離縁して。

でも兄の死のわずか半年後に共立女子職業学校(現・共立女子大学)に入学し、最後は女子専門学校の先生になりました。職業学校に入ったのは32歳の時ですが、当時の寿命を考えると、今の酒井さんより年上の感覚ですよ。

酒井 50代、60代で思い切って一歩踏み出すと、大きく変わる可能性がある、ということですね。

樋口 その通り! 何かを学ぶのに「遅すぎる」ことはないと思います。それに70代になると、女性の7割がおひとりさまです。

酒井 7割! つまり、女性は結婚していたとしても、ほぼおひとりさまになる。ひとりで生きる時間をどうするかも課題ですね。

樋口 定年や年金受給を老後の入り口と考える人は多いようですが、70代は「老いの働き盛り」なんですよ。週に数日でも仕事をすることで収入が得られれば、老後資金の不安が緩和されるし、充実感も得られます。だから、できるだけ仕事はしたほうがいいと思います。

酒井 趣味を充実させるといいと言われても、趣味にもお金がかかるし、毎日趣味だけというのもちょっとつらいかも。私の場合、暇な時はついネガティブなことを考えて、精神のバランスが悪くなる気がします。ですから、なるべく仕事を続けたいです。

樋口 ぜひ、そうなさって!