酒井 ご近所に、マンションのお掃除の仕事をしている80歳の女性がいて、「働いていて本当によかった」とよくおっしゃいます。週に3日程度の勤務だけれど、自分のお金で好きなことができるって。
早くに父親を亡くした私の姪を気遣い、彼女にまでお小遣いをくださるんです。「働いているうちは、そうさせて」って。それができるのは自分が働いているからこそ、という自負心もあるのでしょうね。
樋口 仕事ができなくなっても、人の役に立てることはいろいろあると思います。高齢者施設に入居している女性の体験記に、「ばあさま同士が『食堂で食べさせていただくだけではなく、食べたものを自分で下膳するだけでもスタッフが助かるんじゃないか』と話し合って、そうするようになった」と書かれていました。
酒井 いくつになっても人の役に立ち、求められている実感があると、また生きていこうという気持ちが湧いてくると思います。
樋口 ほんと、そうよね。人間ってなんと健気な生き物なんだろうと、読んで涙が出ました。
クヨクヨにもとことんつきあう
酒井 樋口さんが著書でお書きになった「忙しさと笑いがあれば、たいていのことは乗り越えられる」というお言葉は、何歳であっても共感できます。
樋口 そう、綺麗ごとを書きましたけど(笑)。今日は正直にお話ししますが、実は私、けっこうクヨクヨするの。やはり人間、年中ハイトーンではいられません。つい最近も、がんの疑いが出て検査中。本音は「人生、もう締め切り?」。
9歳の時に腎臓炎で死にかけて、13歳で結核になってもうダメだろうと言われたけれど、なんとか乗り切れた。「89歳まで生きているなんて奇跡よね~」と思っていたはずなのに、「え~っ、もうおしまい? つまんないの」と、何日か落ち込みました。
酒井 どうやって気持ちを切り替えられたのでしょうか。