樋口 落ち込んでクヨクヨ考えていると、だんだん論理的思考が戻ってくる。人は必ず死ぬし、これほど公平なことはない。それに「つまらない」と言えるってことは、今までの人生が「つまっていた」証拠じゃないかな、と。

「早く死にたい」と思う人生より、「もうちょっと、いろいろ見ていたかったわ」と思える人生のほうがいいに決まっています。そんなことを考えているうちに、気を取り直しました。

酒井 体の不調や病気も、なにかを考えるきっかけになるのかもしれませんね。

樋口 人間誰でも、悩んだり落ち込んだりしますよ。とくに高齢になったら、常に朗らかで強くいるなんて無理だと思います。そこそこ満足に生きてきても、なんとなく死の予感におののいている年頃ですから。

でも、クヨクヨして弱さにもとことんつきあうと、さまざまな人との出会いや今までの経験が思い浮かび、感謝の念が湧いてくる。もし今、お迎えが来たとしても、「ありがとう」という言葉を自然に残せる気がします。

酒井 クヨクヨすることも必要なんですね。

樋口 クヨクヨの山の中にぞ福がある。

酒井 高度成長期を働き盛りで過ごされ、介護保険制度を作り、ある意味で日本を開いてきた世代の方が、今度は高齢者の先輩として生きていらっしゃる。後に続く世代にとっては頼もしい存在です。『老いの福袋』もたぶん60代、70代になってから読むと、また読み方が変わってくる気がします。

樋口 ありがとうございます。

酒井 90代になったら、超高齢社会の先輩として、ぜひまたお気持ちを書いていただきたいです。

樋口 お励ましいただき、ありがとうございます。