『歌うように伝えたい 人生を中断した私の再生と希望』(塩見三省・著/角川春樹事務所)

自宅で倒れ、救急搬送された私は生死を彷徨った末、一命を取り留めました。手術はせず、降圧剤を服用して10日ほど入院。そしてリハビリ専門の病院に移りました。

期間としては約5ヵ月。当時の気持ちを一言で言うなら、果てしのない恐怖と絶望です。リハビリは現状維持を目指すものにすぎません。すでに66歳、完全に元の身体に戻るのは不可能とわかったときは声をあげて泣きました。死を考えたこともあります。

しかし7年経った今、私は病を得たことを神様からのギフトだと思うに至りました。倒れる前の生活は確かに順調でしたが、すでに私の生命力はすり減り、意外と弱っていたのだと思います。

倒れてからの毎日は、「生きている」という実感しかありません。そりゃあ私だって、できれば健常者でいたかったですよ。悲しいことやつらいこと、悔しいことは数えきれないほどありますし、生き残ったからこその苦悩もあります。でもそれを超えて余りあるギフトを私は受け取っている――そう思えるようになったのは、この7年の道のりを『歌うように伝えたい』という本に書いたことが大きいでしょう。

 

オレって、社会の異物じゃん

きっかけは、ドラマで共演した星野源君の、「シオミさん、何か書けばいいのに」という言葉でした。彼も病気の経験を、「書く」ことで一区切りつけられたそうです。

書くための時間は、膨大にありました。何もしないでいると考えなくてもいいことまで考えてしまうから、妻にお古のiPadをもらって旧作映画や音楽で気を紛らわしていたんです。そのiPadに、人差し指一本で病気のこと、リハビリの苦しさなどを打ち込み始めました。

もどかしいようなスピード。それはパソコンで原稿を書いていたら決して味わえないものでした。ああ、これはペンで文字を書くスピードに似ているじゃないか、と思いました。言葉一つでも、こうじゃない、もっと違う表現があるはず、と吟味する面白さ。私は次第に書くことにのめり込んでいきました。