イラスト:マツモトヨーコ

60歳で白血病に。治るか治らないかは半々

この概念は、60歳のときに急性骨髄性白血病と診断された私自身の人生においても、大きな助けとなりました。当時の私は、勤務先の病院を辞めて独立したばかり。どうやってクリニックを維持していくのか。代わりにやってくれる医師を手配できるのか……。いっそのこと閉めてしまおうか、などといろいろ悩みました。

まさに解決策が出ない「中ぶらりん」の状態のまま半年間、無菌のクリーン・ルームで過ごすことに。そのときネガティブ・ケイパビリティを意識したのです。

白血病になってしまった事実は変えられない。受け入れるしかない。主治医には、治るか治らないかは半々と言われたけれども、その中ぶらりんに耐えて、明るく最後まで生きていくように気持ちは変えられるはずだ。治るほうに賭けようと思ったのです。

そして悟ったのは、今日という日は私に残された人生の第一日だということ。めげてなんていられない。

さっそく妻に頼んで、消毒したパソコンや資料を病室に持ち込み、執筆に没頭。そうして2冊の小説『水神』『ソルハ』を書き上げることができました。あれこれ思い悩まず、忙しくしていた結果だったのでしょう。いまは定期検診に行くだけで、再発の気配もなく病状は落ち着いています。

おもに精神科の現場で用いられるネガティブ・ケイパビリティの考え方ですが、不安や困難に押しつぶされないための「生きる力」とも言えるでしょう。先ほど述べたように、脳には「わかろう」とする性質があるため、読者のみなさんが実践するのは容易ではないかもしれませんが、この力を身につけるためのヒントをお教えしたいと思います。