夕方になると涙が止まらない

そしてやはり訪れた最後の日。朝から様子がいつもと少し違い、はしごを登る途中でボトッと下に落ちたりしていたので、私は家事もそこそこに頻繁にサムの様子を観察していた。夕方近くになり、珍しく餌をほんの少し食べた後のこと。突然今まで見たことのない痙攣のような動きをしたかと思うと、サムはそのまま動かなくなったのである。

お昼頃にメールでサムの様子を知らせていたので、いつもより早めに帰宅した夫は、まだほんのり温かいサムの体に触れることができた。2人でサムを綺麗な箱に入れ、大好きだったひまわりの種と一緒に庭に埋める。お盆が過ぎ、朝晩の空気に秋の気配が混ざり始めた黄昏時だった。

子どもの頃に飼い猫を何匹も看取ってきたから、ハムスターの死も想像できていたつもりでいた。だがそれから半年近くもの間、私はサムが死んだ夕方になると、布団にもぐり、毎日涙が止まらないのである。

私の手の中で小さく脈打っていたあの子は、もうこの世にはいない。今でもサムを思い出すと胸が熱くなる。あの小さな体で、あんな大きな苦しみを抱え生き切った。最後まで生きる姿を人間の私に示したサムは、心の片隅に宿る小さな光だ。生き方を何に教えられるかなんて、わからないものだ。

実は、サムには面白い後日談がある。夫婦でかわいがっていたからか、夫と私の夢の中に何度も登場し、自分の近況を伝えてくれたのだ。

なんとサムは結婚して、元気な男の子を2匹もうけ、おまけに介護用品を扱う店を経営している。夢の中で彼の奥さんとも会った。自家製のチーズを持ってわが家に遊びに来て、「私たちにとっては親代わりだと思っています」と優しく微笑んでくれた。

今はもう夢に出て来ないが、最後の夢では夫のもとに来て私への伝言を残した。「おかげで、こうやって結婚し、子どもも持て、商売もやれて、心から感謝している」と。朝、夫からその夢の中のサムの言葉を聞いた時、私は心の底から嬉しかった。

やっぱりきみはハンサムボーイ。違う世界で頑張っているきみとその家族に心からのエールを送りたい。私もこの生を最後までまっとうするよ、サムを見習って。


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