「医師から『麻紀さん、頭の中が真っ白ですよ。脳卒中に要注意ですよ』って警告されていたのに、自分に限っては大丈夫だと過信していたのよね」
10年ほど前、歩くことも困難になるほどの脚の痛みに襲われたカルーセル麻紀さん。下肢閉塞性動脈硬化症と診断され、以来、血管を広げるためのカテーテル手術を何度も受けてきました。そして20年には脳梗塞に。すべて血管に関係する病です(構成=丸山あかね 撮影=川上尚見)

コーヒーが口の端からこぼれて

あたし、危うく死ぬところだったんです。脳梗塞で。「もうすぐ79歳なんだから、何があってもおかしくないわよ」って人には大口たたいてるんだけど、いざとなったら焦ったわ。テレビの健康番組に出演して脳のMRI検査を受けた時に、医師から「麻紀さん、頭の中が真っ白ですよ。脳卒中に要注意ですよ」って警告されていたのに、自分に限っては大丈夫だと過信していたのよね。

病院に救急搬送されたのは2020年の4月30日でした。前日の夜、いつものようにテキーラを飲んで寝ようとしたら、口の端からこぼれてうまく飲めなかった。でもちょっと疲れてるのかなと思って、そのまま寝てしまったんです。

翌朝は普通に起きて庭の草むしりをして。部屋に入ったタイミングで旧知の友人から電話がかかってきたの。彼にはこっちから幾度も連絡をしていたのに、音沙汰なしだったので、コロナに感染してなきゃいいけど、と心配してたんです。そうしたら案の定、持病があったせいで重篤化して集中治療室にいたと。「死ぬと思った」って泣きながら叫んでた。

それを聞いてドキッとして、どうしてだか釧路の妹に電話したんです。そうしたら、たまたま看護師をしている姪が電話に出て……。ここが運命の分かれ道だったかもしれません。

あたしは姪に、コロナに感染した友達の話をして、自分の心を落ち着けようとしました。ところが姪は開口一番、「ねぇ、なんだか話し方が変よ。ろれつが回ってない」って言ったんです。

「そういえば、さっきからコーヒーがうまく飲めなくて、ティッシュで口の端を押さえながら話してるのよ」って返したら、姪が「脳梗塞だと思うから、すぐに救急車を呼んで!」って。でも、あたしは「これからピザを食べるとこだから」とか呑気なことを言ったらしい。このあたりの記憶は曖昧なんですよ。怖いですよねぇ。