彼女との最初の出会い

やがて私は当時のCM制作会社に籍をおくようになった。三木鶏郎グループから派生したコマーシャルソングのプロダクションがそれだった。

そのオフィスはCMソング全盛時代のメインストリームというより、CMソングの近代化、企業化に先駆けたプロダクションと言っていい集団だった。当時のメディアにあふれた多くのCMソングは、そのほとんどがその制作会社から生まれている。

私はそこにCMソングのコピーを書くライターとして加わったのだ。作詞家などという立派な肩書きではなく、当時はヴァース・ライターと呼ばれていた。自分の書いたCMソングが大ヒットし、時代の流行語となっても、作った人間の名前は出ないのが普通である。著作権さえ保証されていない世界だった。そんな中で、数多くのCMソングの歌詞を書く日々である。多いときは一日に何曲かのコピーを書いた。何百曲書いたか、その数さえ憶えていない。そんな仕事だった。

一応、ペンネームは「のぶ ひろし」となっている。本名をもじった筆名である。

そんななかで、いまも憶えているのは、日本酒のCMソングの二曲である。

一つは『富久娘』。これは当時、とても人気があった朝丘雪路さんがうたっている。

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〽酔えばあなたが綺麗に見える
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などという歌謡曲調のCMソングだった。