「二枚目ふうでいて三枚目」な歌
もう一曲は『日本盛(にほんさかり)』のCMソングである。これもお酒のCMだ。
私が詞を書いて、高井達雄さんが曲をつけてくれた。
高井さんといえば『鉄腕アトム』の主題歌の作曲家である。世界のどこにいっても、「この人はあの鉄腕アトムの歌の作曲家です」
と紹介されればすべてOKという音楽家。名刺などぜんぜん必要ないという有名人だ。
それはCMソングらしからぬ、こんな歌詞だった。
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〽灘の生酒にまごころこめて 日本盛に花添えて
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で、はじまるスローバラードだが、途中から一転して軽快なリズムに変る。二枚目ふうでいて三枚目、といったいっぷう変った歌だった。
「これは難しいね。最初は情緒てんめんと始まり、途中からガラッと転調するから、歌い手さんには二面性が要求される。抒情味とコミカルな明るさを同時に表現できるような歌い手さんなんて、いそうでいないんだよなあ」
と、ディレクターのOさんは首をかしげていた。
「天地総子(あまちふさこ)さんかな? それとも楠(くすのき)トシエさんだろうか」
と、当時CMソング女王といわれたお二人の名前をあげて苦吟している。
「あのー、ペギーさんではどうですか」
と、私が横から口出ししたら、Oさんは苦笑して、
「前半は問題ないけど、後半の一転して軽快なリズムに変るところがどうかなあ」
「絶対に大丈夫。あの人の歌だけじゃなくてトークを聞いてると、すごい茶目っけもあるし、ジャズ畑の出身ですからね。リズム感は大丈夫でしょう。絶対いけますよ」
と、私が力説して、代理店側も納得し、実現の運びとなった。
結果は予想以上にうまくいった。
「ペギーさんって、コミカルな歌もバッチリですね」
と、録音や現場のスタッフも驚くほどの出来ばえだった。
私はそれまでペギーさんの歌をそれほど多く聴いてはいなかったが、なんとなく、この人には明るい歌が似合っているような気がしていたのである。
それが最初の出会いだった。