足るを知り、今あるもので楽しむ
老後のお金の不安などから、今の世の中は、金銭欲にとらわれがちです。そもそも人の《欲》はなくなりません。欲があるから、向上心が芽生え、努力をする。お金は生活するうえで必要ですし、価値交換のための大切なもの。お金を欲することを否定するつもりはありません。ただし、お金は使う人の心に左右されます。
「もっと、もっと」という欲望には際限がありません。仏教には「知足(ちそく)」、足るを知れ、という教えがあります。雨露をしのぐ家があり、1日3食いただける。それがどんなに恵まれた環境か、私は修行で身をもって知りました。
とはいえ、それだけでは満足できないのが人間です。けれども、足るを知り、年を重ねるにつれ、今あるもので楽しむという考え方にシフトしていき、物欲や金銭欲をコントロールできるようになるのが、人としての成長だと思います。
いい欲として、自分を磨くための欲のほか、社会のために貢献したいという欲もあるのです。例としては寄付がそう。ある程度の余裕があるならば、世の中に還元する使い方をしてはどうでしょう。我々の命は残り数十年。どれだけ貯めてもあの世には持っていけない。だったら、困っている人に分けて、みんなで楽しんだほうがいい。私はそんなふうに思います。
私は子どもの頃、両親が離婚して母と祖母に育てられました。とても貧しく、ご近所など周りに助けられる生活。地元にお寺を建てたのは、そのご恩をお返ししたいという思いが出発点です。
そして今、家族、友人、知人、お仕事を依頼してくださる人などいろんな方々のお力添えやお布施によってお寺を維持している。お金は、「ご縁の賜物」なのです。