私のイサベル

著◎エリーサベト・ノウレベック
訳◎奥村章子
早川書房 2100円

スウェーデン発、新鋭作家の
「毒母」心理サスペンス

その人気いまだ衰えを知らず、まだまだ熱い北欧ミステリー&サスペンス。ここにきて新しい書き手も登場している。本書はストックホルム在住の女性作家によるデビュー作だが、すでに35ヵ国以上での翻訳、出版が決定しているという。デビュー作にして世界級レベルの心理サスペンスである。

物語は、心理カウンセラーのステラの前にイサベルという女子大生がやって来るところからはじまる。イサベルは父の死の喪失感から立ち直ることができないという。ステラはそんなイサベルを一目見るなり、20年前、行方不明になった娘のアリスだと確信するのだ。しかしイサベルには、離れて住むシェスティンという母親がいた。

ステラ、イサベル、シェスティンという3人の女性たち、それぞれの一人称の独白が交錯しながら物語は進行する。イサベル(アリス)と出会った日以来、ステラは心の均衡を乱し、娘が生きていたという言い分は、夫や友人から認められない。ステラはイサベルの身辺を探りはじめる。一方で「毒母」との関係に苦しむイサベル、そしてシェスティンの狂気じみた娘への執着が明らかになっていく。

3人の女性の不思議な出会いと過去、不安定な心が北欧のダークな雲のように重層的に描かれる。怖いのはステラが自分の正気さえも疑ってしまう「信用できない語り手」の気配を漂わせるところだ。いったい誰の言い分が真実なのか、不穏な波が何度も読者に襲いかかる。

後半は「追跡と逃避」という手に汗握る怒濤の展開に突入、そして二転三転する心憎いラスト。北欧ミステリーのシリアスさと陰鬱さ、ハリウッド映画のエンターテインメント性を併せ持った作品である。