イラスト:なめきみほ
日本の総人口が減少するなか、65歳以上の高齢者は2021年の時点で3640万人、総人口に占める割合は29.1%になりました。人生100年時代とうたわれる一方で、定年を迎えるなどして定収がない場合、あらたに賃貸物件を借りることが難しいなど、社会問題も産まれています。77歳の南志乃さんの場合も、終の棲家がまさかの取り壊しで立ち退きに。途方にくれたものの、瓢箪から駒か、棚からぼた餅か。期待していなかっただけに、手元に転がってきた幸運が愛おしく――

30年以上も家に寄りつかなかった娘が

長年住み慣れたアパートを12月までに出てもらいたいと不動産会社から通達されたのは、真夏のある日のことだった。老朽化が進み、取り壊すことになったらしい。寝耳に水とはこのことだ。夫婦の終の棲家になると思っていたのに。

ごみ捨て場に多数のガラクタが出ているな、とは感じていた。どうやら2階の住人は知っていたようだ。「何、奥さん知っていたの?」と聞くと、「うーん……そうねえ」とあやふやな返事をされた。とにもかくにも引っ越さねばならない。私は重い腰を上げた。

しかし、後期高齢者の老夫婦に世間の風は冷たい。不動産会社には「高齢者に貸せる物件はないんです。都営住宅に申し込んでみては」と言われる。そこで、区の窓口で申し込んでも、コロナ不況のせいか希望者多数。抽選にもれてしまった。

このままだと、住む家がなくなってしまう。再び不動産会社に泣きついたら、同情したのか一軒のアパートの大家さんを紹介してくれた。

そのアパートは1K。偶然にも、大家さんは、早朝パートへ出勤する際にすれ違い、いつも「おはようございます」と挨拶していた人だった。元八百屋さんで、ときどきネギやジャガイモをそのお店で買っていた。

相談すると大家さんは、「若い人たちばかり入居してもらっていたけど、特別にあなたたちはいいよ」と快諾してくれた。ラッキー! さらに更新料もいらないと言われ、諸手を挙げて大喜び。病でほとんど寝たきりの夫も、一緒にバンザイしてニコニコしている。