ハダカデバネズミは全くがんにならない

ハダカデバネズミが長寿になったのは、天敵が少ないためだけではありません。そこには、長寿を可能にする重要なヒントが隠されています。

深い穴の中でゴロゴロ寝ながら集団生活を送るハダカデバネズミ。著者撮影(『生物はなぜ死ぬのか』より)

まず、低酸素の生活環境です。

深い穴の中で、100匹程度が集団生活を送っているため、酸素が薄い状態に適応しています。普通のネズミは酸素がなくなると5分程度で死んでしまうのに対し、もともと酸素が少ない環境で生活しているハダカデバネズミは20分以上生きていられます。体温も非常に低く(32度)、そのため体温を維持するエネルギーが少なくていいので、食べる量も少なくてすみます。

これらの性質はハダカデバネズミの代謝が低い、つまり省エネ体質であることを示しています。省エネ体質のさらに有利な点は、エネルギーを生み出すときに生じる副産物の活性酸素が少ないということです。

活性酸素は、生体物質(タンパク質、DNAや脂質)を酸化、つまり錆びさせる作用がある老化促進物質です。これらが少ないということは、細胞の機能を維持する上で有利です。

例えばDNAが酸化されると遺伝情報が変化しやすくなり、がんの原因となりますが、そのリスクが減ります。興味深いことに、実際にハダカデバネズミは全くがんになりません。これは長寿に相当貢献しています。

また、狭いトンネルの中で暮らしているため、体に多くのヒアルロン酸が含まれ、皮膚に弾力性を与えています。このヒアルロン酸も抗がんの作用があることが最近の研究で判明しました。