2022年2月10日に発表となった「新書大賞2022」。2020年12月から21年11月に刊行された1300点以上の新書について、有識者、書店員さん、各社新書編集部などに投票してもらい、見事第2位になったのが『生物はなぜ死ぬのか』です。生物が免れることのできない「死」の意味について正面から向き合った同書は14万部を超えるベストセラーとなり、21年4月の刊行から約1年を経た今も版を重ねています。今回同書より“ネズミの死”について小林武彦・東京大学定量生命科学研究所教授が解説した部分を特別に掲載いたします。
小型のネズミにとって長生きは必要ない
死に方の分類では野生のマウス、特に小型のものは「食べられて死ぬ」タイプです。いわゆるネズミ(ハツカネズミ)は実験室で飼うと2〜3年生きますが、野生で生きられるのは環境にもよりますが、数ヵ月からせいぜい1年です。
ハツカネズミは生後わずか2ヵ月で成長・成熟し、名前の通り20日間の妊娠期間で4〜5匹の赤ちゃんを出産します。このペースで年に何度も出産します。もし野生のハツカネズミが餌にも恵まれ何年も生き延びたら、町中ネズミだらけになることでしょう。
実際にヒトが住まなくなった街で、ネズミが大発生しているのはよく聞く話です。
「進化が生き物を作った」という観点からハツカネズミの生き方を考えると、彼らの生き残り戦略、つまり結果的に生き残れた理由としては、天敵に食べられて死ぬ確率を減らすために、すばしっこく動くことで逃げ回り、食べられる前にできるだけ早く成熟して、たくさん子供を残すような性質(多様性)を持ったものが生き残ったということになります。
そのトレードオフ(引き換え)として、小型のネズミは長生きに関わる機能―例えばがんになりにくい抗がん作用や、なるべく長生きできるような抗老化作用に関わる遺伝子の機能を失っていったと考えられます。
なぜなら、どうせ食べられて死ぬので、彼らにとって長生きは必要ないのです。そういう意味では後でも出てきますが、ヒトの老化を研究するためにマウスをモデル動物として採用するのは、あまり良くないのかもしれません。