ハダカデバネズミが取得した寿命延長の正のスパイラル

真社会性の大切なことは、これらの分業により仕事が効率化し、1匹あたりの労働量が減少することです。実際に布団係以外の多くの個体もゴロゴロ寝て過ごす姿が見られます。こうした労働時間の短縮と分業によるストレスの軽減が、寿命の延長に重要だったと思われます。

そして寿命の延長により、「教育」に費やせる時間が多くなり、分業がさらに高度化・効率化し、ますます寿命が延びたというわけです。まさに、寿命延長の正のスパイラルによって通常のネズミの10倍もの長生きが可能になったわけです。

そして肝心の死に方ですが、これがまた不思議で、若齢個体と老齢個体でその死亡率にほとんど差がありません。つまり年をとって元気のない個体がいないのです。

何が原因で死ぬのかはわかっていませんが、死ぬ直前までピンピンしています。まさにピンピンコロリで理想的な死に方です。

※本稿は、『生物はなぜ死ぬのか』(講談社)の一部を再編集したものです。


生物はなぜ死ぬのか』(著:小林武彦/講談社現代新書)

私たちにとって「死」は、絶対的な恐るべきものとして存在している。しかし、生物学の視点から見ると、すべての生き物、つまり私たち人間が死ぬことにも「重要な意味」がある。その意味とはいったい何なのか。遺伝子に組み込まれた「死のプログラム」の意味を解き明かす!