精緻化リハーサルは維持リハーサルよりも効果的な記憶方略である

このことを、成績のよくない子どもたちは十分にわかっていないように見えます。彼らには、あまり考えずに、与えられた文をそのまま繰り返して丸暗記(維持リハーサル)しようとする傾向があるようです。

そのため、文の長さのみに着目して学習の容易さを判断してしまい「短い文の方が覚えやすい」と考えるのです。

成績のよくない子どもたちほど、丸暗記(維持リハーサル)を試みる傾向がある?(イラスト提供:イラストAC)

言うまでもなく、維持リハーサルよりも精緻化リハーサルの方が、効果的な記憶方略です。

そこで次に、ブランスフォードらの研究グループは、維持リハーサルから精緻化リハーサルに移行させれば記憶成績が上がるのではないかと考え、自分で意味づけをするという精緻化の有効性を教えるとともに、精緻化の方法をトレーニングしました。

先ほどの「力持ちの男が、朝食の間に新聞を読んだ」という文であれば、たとえば「力持ちの男が、力仕事のアルバイトを探すために、朝食の間に新聞を読んだ」というような意味づけをすれば、覚えやすく、また思い出しやすくなるでしょう。

精緻化のトレーニングをしてみると、文を覚えることについての子どもたちの記憶成績は、実際に向上した。このことから、成績のよくない子どもたちに対して、精緻化リハーサルは維持リハーサルよりも効果的な記憶方略であるというメタ認知的知識を獲得させ、自ら精緻化方略を試してみることでその効果を実感させるという、メタ認知的な働きかけが有効であることがわかります。

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*1. Bransford, J. D., & Johnson, M. K. (1972) Contextual prerequisites for understanding: Some investigations of comprehension and recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11, 717-726.

*2. J. ブランスフォード・B. スタイン(著)、古田勝久・古田久美子(訳)(1990)『頭の使い方がわかる本 問題点をどう発見し、どう解決するか』 HBJ出版局

*3. Stein, B. S., Bransford, J. D., Franks, J. J., Vye, N. J., & Perfetto, G. A.(1982) Differences in judgments of learning Psychology: General, 111, 4, 406-413.

※本稿は、『メタ認知』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


メタ認知-あなたの頭はもっとよくなる』(著:三宮真智子/中公新書ラクレ)

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