●越後湯沢温泉 (新潟県南魚沼郡湯沢町) 
川端康成『雪国』

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった」

ノーベル賞作家・川端康成の不朽の名作『雪国』の書き出しである。この作品の舞台になったのが新潟県の越後湯沢温泉である。昭和初期の鄙びた雪国の温泉町で、東京在住で親の財産で無為徒食の生活を送り、自称フランス文学評論家を名乗る島村と温泉の芸者・駒子の美しくも哀しいまでに燃える女心を描いた物語だ。

今は東京から上越新幹線で越後湯沢駅まで1時間10分で行けるが、作品と同じ風情を味わうとすれば水上駅で下車し、在来線の上越線に乗り換えなければならない。しかも昭和42年の上越線の複線化に伴い新しいトンネルは下り線となり、川端康成が執筆した当時と同じように清水トンネルを抜けて「雪国」を訪れることができなくなった。

越後湯沢温泉は平安末期、高橋半六(現在の「雪国の宿 高半」の祖先)によって発見され、温泉として繁栄が始まるのは、昭和6年の上越線開通後である。

川端康成は昭和9~12年にかけて「高半」に滞在し『雪国』を執筆した。「高半」は最近鉄筋6階建ての新しい旅館に建て直されたが、川端康成が執筆に使った「かすみの間」は、往時のまま2階の展示室の一角に移され保存公開されている。また、越後湯沢駅の近くには、前記の冒頭文を刻んだ川端康成直筆の「雪国の碑」と町営の立ち寄り温泉施設「駒子の湯」がある。

『雪国』の冒頭文を刻んだ川端康成直筆の「雪国の碑」
「雪国の宿 高半」の「かすみの間」で川端康成然として座る筆者 

昭和32年に岸惠子、池部良の主演で映画化され、昭和40年には、岩下志麻、木村功の主演で再映画化され、テレビやラジオでも何回となくドラマ化されている。