お客様方のスマートな応援っぷりに驚いて

やがて「お花」を付けるお客様も。

橘小龍丸劇団鈴組 若手役者の凛々しくも、華やかな舞に心躍る(写真提供:著者)

これは応援する役者さんへの「ご祝儀」、あるいは「心付け」。

その渡し方がとにかくスマート。届けるのは舞踊ショーのみ。それも踊りを遮らぬようタイミングを見計らい静々(しずしず)と。お客様はつい、と膝立ちで、つつつ……と舞台の前方、あるいは花道へ。

気付いた役者さんが優雅に腰を落とす……と、その襟元や帯にご祝儀をすっ、と差し込み、あるいはピンで留め、静かに拝んで両手をあわせ、楚々と自分の席に戻られる。それを見送り舞い続ける役者……まさに阿吽(あうん)の呼吸……

握手やハイタッチといったファンサービスがあるわけでなく。ただ、静かにお花を付け、付けられ、互いに見つめ合う一瞬、贔屓(ひいき)と客、ふたりだけの空間となる――なにこれ!!! 今、とんでもなく尊いものを見た。

休憩時間ともなれば顔見知りらしいお客様方が挨拶を交わし、お菓子を配ったり、別の公演で撮ったらしい写真を見せ合ったりと和気藹々(わきあいあい)、頰を染め、語り合う。

なんか、すてきな空間だ。

と、ふいに肩をとんとん、と叩かれ、私の手に飴玉が。「え?」と思うまもなく、にっこりと笑顔のお姉さまが「おすそ分け」と一言。周辺の方々にも挨拶がてら配っているようで、なるほど観客同士の距離もほどよく近い。

どんな方々なのかしら? と気になって周りにあれこれと伺ってみる。劇団さんは関東近県からときには東北、関西の劇場さんや健康センターさんや温泉地を、一ヶ月ごとに!? 回っているという? なんというシステム???

ご近所にお住まいで、毎月、異なる劇団さんを楽しみにしている方がおられると思えば、ひとつの劇団さんを熱心に追いかけている方も。なかには関東での公演を待ちわびて「今月はこの劇場に通うために定期券を買った」という方も!

そして、もちろん私たちのように初めて来たらしい方々も。

しかし、のちに私は知るのです。

好きな劇団のために週末、仕事終わりに自宅から片道十数時間を運転し、一回の公演を嚙み締めては、明け方に帰宅して出社する。かような日々を、全国津々浦々、可能な限り駆けつける、という同年代の御方の存在を……思わず、先輩! と呼びそうに。