安子さんはいまも小学生たちを相手にバットを振る、現役の指導者である。(撮影:後藤鐵郎)
2022年3月25日のNHK総合『ドキュメンタリー 春』に、棚原安子さんが登場。82歳の今も現役で少年野球チームの指導をしている。「12歳を過ぎると子どもは思春期に入り、親の言葉を素直に聞かなくなる。それまでに身につけるべきことを徹底して教えれば、大きく道を踏み外すことはない」という指導で、50年の間に1200人の子どもが「社会で生きる力」を身につけて巣立った。チーム創立の思い、夫の介護をしながらも熱血指導を続ける理由などを語った『婦人公論』2021年6月8日号の記事を再配信します。


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80歳を過ぎてもなお元気で、自分のやりたいことを追求し続ける女性。そのパワーはどこから生まれてくるのでしょうか? 約130名の少年野球チームを率いる80歳の棚原安子さんの元気の秘訣は。(取材・文=社納葉子 撮影=後藤鐵郎)

子も親も一緒に育てる

いま時、元気な70代80代には驚かない……と思っていたが、棚原安子さん(80歳)には驚いた。大阪府吹田市の少年野球チーム「山田西リトルウルフ」を夫・長一さん(82歳)とともに創立して今年で50周年。小学1年生から6年生まで総勢約130名(うち女子3名)、学年ごとに2チーム編成という大所帯だ。安子さんはいまも小学生たちを相手にバットを振る、現役の指導者である。

4月半ばの日曜日。まだ朝晩の空気はピリリと冷たい。この日は正午から5年生の試合が組まれていた。まずは朝9時に広めの公園に集合し、約2時間の練習をする。

45分間のノックを終えた安子さんに、通りかかった夫婦が笑顔で声をかけてきた。聞けば卒部生の親だという。「おばちゃんには子どもをかまい過ぎるなと教えられました」と夫が言えば、「親も一緒に育ててもらった気がします」と妻。

「おばちゃん」とは創立以来の安子さんの「肩書き」。「おばちゃんなんて」と眉をひそめる人もいたが、「けじめは大事やけど堅苦しいのは嫌いなんです」ときっぱり。しかし挨拶や言葉遣いなど礼儀やマナーはきっちりと教える。リトルウルフのモットーは「礼儀、友情、野球術」。礼儀をわきまえ、仲間を大切にしたうえでの野球なのだ。